2006年 05月 02日
あれから12年。 光陰、矢の如し。 月並みな表現だが年月が経つのは早い。 自分は、アイルトン・セナのファンではなかった。 ただ、速く、そして強かったのは間違いなかった。 当時、ピケやプロスト、マンセルなんかも速かったが、セナの速さはその3人とは違う質のような感じがしていた。そして何より強かった。 セナの強さを示すレースを一つ挙げてください、と言われれば1993年のヨーロッパGP、ドニントンパークでの出来事を思いだす。 「雨のドニントン」と唄われているそのレースは、当時ハイテク最強マシンだったウィリアムズ・ルノーにA・プロストのパッケージで、レースを席捲していた。簡単に言えばいつもプロストが独走だった。 対抗馬としてA・セナがマクラーレンにいたのだが、ホンダは92年にF1から撤退。93年からはフォードエンジンでの参戦となっており、大幅な戦力ダウンは否めなかった。 そして、93年第3戦ヨーロッパGP。プロストはお約束の1周2秒のマージンを後続車につけて余裕の独走かと思われた。 しかし、ここに突如として雨が降る。 雨に振り回されるウイリアムズピット。プロストや当時のチームメイトD・ヒルは何度もスリックタイヤとレインタイヤの交換を繰り返し、いたずらにピットストップを重ねていく。 しかし、セナはスリックタイヤでコースにとどまり続けた。神がかり的なドライビングで、つるつるにすべるマシンをコントロールし、終わってみれば、3位プロスト以下を周回遅れにする圧勝劇だった。ちなみに2位はヒルだったがこれももうすぐ周回遅れ、と言うほどタイムギャップを築いていた。 マシンが強くなくても実力で勝てる、F1は最後は人と人の勝負なんだ、そんな強烈なメッセージをセナはその年、我々に残してくれたような気がする。セナはそんな普通の人にはない、何かを持っていたような気が今でもしている。 1994年、宿命のライバル、プロストが引退し、セナも王座から追われる立場に身をおくこととなった。そして、その若手の旗頭がミハエル・シューマッハ。 1994年はセナ&ウイリアムズも思ったような成績を上げられず、シューマッハ2勝、セナ0ポイントで迎えた第3戦サンマリノGPだった。 もう、あの日の出来事については多くを語りたくないのでレースの情景は割愛させていただくが、CXでセナクラッシュの後、続けられたレースの途中で映像が突如打ち切られ、現地のLive映像に切り替わり、セナが帰らぬ人となったニュースが流れたときは、暫く空虚が自分を支配したのを覚えている。 セナがクラッシュして惰力で動いていたマシンが止まったとき、一瞬あのカナリアカラーのヘルメットが『動いた』ように見えた。 大丈夫だろう。 ただならぬ雰囲気の中にも、その時は自分に楽観的に考えるようにしようとしたことを今でも覚えている。 しかし、ウイリアムズのピットではパトリック・ヘッドとエイドリアン・ニューウィーが泣いている姿を映し出しており、気道確保のため、首の一部を切断したときに出血した血痕が地面についていた映像を見ると、その楽観的な気持ちも、小さくしぼんでいった。 CXでF1中継のアナウンサーをしていた古館伊知郎氏が「音速の貴公子」と言うフレーズをセナにあてていた。本当にサーキット場で「音速の貴公子」だったが、人生も「音速の貴公子」であったのが、本当に悔やまれてならない。 1994年は、F1は、2名の尊い命が失われる、悲痛な1年であった。 かのサンマリノGPの予選中には、トサコーナー手前でローランド・ラッツェンバーガーも事故死している。その時点で、サンマリノGPは中止にすべきだった。そう言う事をいうのはナンセンスだと自分でもわかっていても、今でもあの異様なグランプリの雰囲気は容易に思い出され、今でもそう思ってしまう自分がいる。 そして、続く第4戦モナコGPでも、カール・ヴェンドリンガーが大クラッシュし生死の淵をさまよう怪我を負う。 そして、それまであまり叫ばれなかった安全性について、大きく叫ばれるようになったのである。 あまりにも大きな犠牲だった。 表題は、現CS解説の今宮さんが、サンマリノの現地映像のときに、涙を流しながら語ったフレーズである。 「アイルトン・セナはもういませんが、それでもF1はつづいてゆくのです。」 嗚咽を押し殺しながら喋る今宮さんの言葉に、八百屋もその時初めて、涙が止まらなくなったのを今でも覚えている。 それから12年。今もF1は続いているし、自分自身もこうしてF1を見続けている。 そして、セナもずっとこのF1を雲の上から見続けてくれているのだろう。 いつも、5月になると、ちょっと苦いそして寂しい気持ちが、心の底から顔を出す今日この頃である。
by 5aday
| 2006-05-02 00:00
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