2006年 07月 24日
サッカー:W杯2006振り返り企画#2:何故ブラジルはベスト8で敗退したのか?
「ブラジルは1000馬力のエンジンを持っていたのに、それがうまく動かなかった。」
-フランツ・ベッケンバウアー ドイツサッカー協会会長-



 今回予選からほぼ順当に勝ちあがってきた強国だが、ベスト8で優勝候補3カ国が一気に消える波乱があった。その中には、今回取り上げる南米の雄、アルゼンチンとブラジルも含まれている。ブラジルは、戦前から「カルテット・マジコ」が話題沸騰。またバルサのロナウヂーニョの活躍もあり、「今大会はロナウヂーニョの大会になる」と予想を立てる評論家も少なくなかった。
 アルゼンチンも、ベテランを軽視するペケルマンの召集振りに批判が高まったが、いざ大会が始まってみると、セルビア・モンテネグロに6-0で大勝する等、実績を作り否定派を黙らせ、大会中に一躍優勝候補の筆頭に躍り出た。
 この彼らがなぜベスト8と、早すぎる敗退を強いられることになったのか。
 今回は、セレソンに絞って、その理由をいくつかの側面から検証していきたい。

■ ブラジル敗退の理由
1.パレイラ監督の采配
2.エヂミウソンの怪我による離脱
◎八百屋のこれだけは言わせて!!…ロナウヂーニョのパフォーマンスが敗退の理由にはならない

1.パレイラ監督の采配
 今大会、リアリストで名を馳せるパレイラは、采配に大きな過ちを犯した。ベスト8フランス戦の、カルテット・マジコを崩した3センターハーフはその最たる例だが、それ以外にも複数の過ちを犯している。それを少し検証したい。

● RSBをカフーにこだわり続けたツケ
 ブラジルのアンタッチャッブルと言われた両サイドバック、カフーとロベルト・カルロス。この両者は明らかに衰えが顕著で、パフォーマンスも良くなく、後進を積極的に再拝すべきだった。
 特にRSBのカフーは、病み上がりと言うことで動きも鈍く、かつてのような90分を通しての、タッチラインのアップダウンする動きはなりを潜めた。グループリーグ第3戦の対日本戦では、カフーに変わりシシーニョが先発したが、どちらがインパクトを残せたかは、誰が見ても明らかだった。それを知っていながら目をつぶり続けたパレイラは、ベスト8でそのツケを一気に払わされることになる。

● ロナウドとアドリアーノ共存に無理あり
 今大会、どちらも絶不調のコンディションで臨んだこの二人。しかし大方の予想に反してロナウドは3ゴール、アドリアーノ1ゴールと、大会当初の出来を考えれば点を取ったと言えば取ったかも知れない。しかし、世間の期待は、02大会の「3R」の華々しさを更にしのぐサッカーでの、豪華陣営による得点の競演だっただろう。パレイラはメディアの質問に「なぜ、ブラジルは華麗なサッカーを宿命付けられているのか!?」と、憤慨していたが残念ながら全世界がセレソンに期待するサッカーとは、おおむるパレイラが嘆いている内容のサッカーだろう。
 さて、話は少し古い話題に遡るが、コンフェデ05大会。この大会でブラジルはアルゼンチンを下し優勝を手にしている。この時も、4-2-2-2のシステムをパレイラは披露しているがこの時の2トップは、アドリアーノとロビーニョの2トップだった。ロビーニョは、どちらかと言うと、運動量豊富に、パスを受けたりスペースを突いたりする、オフザボールの動きに優れた選手でもあり、ボールを持てばドリブルで局面を打開する能力も有している。ともすれば、相手DFはロビーニョに複数のマークをつける必要が出てくることになり、結果アドリアーノのマークがうすくなることがあった。ここでアドリアーノは活躍できたのだ。
 ところが今大会、ゴール前でガチガチに張るロナウドとアドリアーノは、敵に完全にマークされ、カカやロナウヂーニョはパスの出しどころに完全に窮した。カカやロナウヂーニョが輝きを放てなかったのは、詳しくは後述するが、彼らのコンディションが優れなかったからではなく、彼らがクラブチームとは全く異なる役回りに徹しなければならなかったということである。オフザボールの動きに乏しい、ロナウドとアドリアーノのコンビで、セレソンは全くと言っていいほどクリエイティブなサッカーが出来なかった。それでも、あれだけオーバーウエイトとメディアから酷評されたロナウドも一瞬のすきを逃さず3ゴールをあげたのは流石であったが、しかしそれが今大会の攻撃陣の限界だった。アドリアーノとロナウドの共存は終盤のパワープレーのときのみ。先発はロビーニョ+ロナウドかアドリアーノが、カルテットマジコを完全に活かすことの出来る布陣だったと、八百屋は思っている。

● ベスト8で用いた「3センターハーフ」起用の本質
 パレイラは、これまでメディアの質問に対し、W杯ではカルテット・マジコを必ず起用し続けると言明して来た。それに対し、八百屋は警鐘を鳴らしていたがその反面、彼がセレソンの活路は圧倒的な攻撃サッカーにある、と言うリアリズムから来る結論がカルテット・マジコであったのなら是非それを貫いて欲しかった。得てして、グループリーグ。マックと言っていいほど機能しなかったカルテット・マジコを使い続けて何とか形だけでも3連勝を手に入れて決勝ラウンドに進んだパレイラ率いるセレソン。ロビーニョやシシーニョ等、決勝トーナメントでのジョーカーをグループリーグで探し当てていたにもかかわらず、彼はそれらのカードを有効活用できずに、ベスト8で姿を消した。
 ベスト8のフランス戦。セレソン同様、グループリーグで酷評され続け、ベスト16で攻撃サッカーを見せつけ旋風を巻き起こしつつあったスペインを3-1の逆転で破ったフランスに恐れをなしたパレイラは、あっさりカルテット・マジコを放棄。3センターハーフの4-3-1-2(後日ビデオを見たら4-3-2-1に見えなくも無い)スイッチしたところで、セレソンの敗退は8割決まってしまった。
 特に1トップにロナウドをすえる暴挙に出て、攻撃の形は全く作れず。後半ロビーニョを入れてヨウや行くリズムをつかむも時既に遅し。攻撃サッカーは、結局結実することなくベスト8で消えていった。
 まず、ロナウドに1トップをやらせること自体、無理があった。ポストプレーに優れているわけでもなく、またオフザボールの動きに乏しい今のロナウド。彼が1トップをやって、機能するチームなど存在しない。ロナウヂーニョもますますボールの出しどころが無く混乱、敢え無くフランスの守備網に潰されていった。
 確かに3センターハーフは、南米予選でもしばしば見られた形で、守備重視のシステムの時には、これが用いられていた。しかし、パレイラはあまりに浅はかだった。フランスに守備的布陣で挑もうとしたこと自体が大きな間違いだったのだ。彼らも守備重視のシステム。同じ理論で組すれば間違いなく得意分野のフランスに軍配が上がる。セレソンは、どれだけカウンターの危険にさらされようと攻め続けるしか活路は見出せなかったはずだ。あの招集メンバーを見ても、守ろうと思えばもっと守れる選手を選ぶべきだ。リアリズムの裏打ちのカルテット・マジコかと思ったパレイラの采配は、実はメディアやブラジル国民のプレッシャーから逃げる為の苦肉の策でしかなかったことが、この試合で判明。信念を持たないパレイラは、ベスト8で敗れるべくして敗れたのだ。
 指揮官が最後まで自分の信念に自身が持てなかったカルテット・マジコ。もしパレイラが、腹をくくってカルテット・マジコを起用し続ければ、セレソンはもっと違った結果になっていたか知れない。


「何故、ブラジルだけが魅力的なサッカーをしなければならないのだ?記録には魅力的かどうかは残らない。トロフィーを勝ち取ったチームだけが記録に残るのだ」
-カルロス・アルベルト・パレイラ ブラジル代表監督(先日監督を辞任)-


2.エヂミウソンの怪我による離脱
 パレイラにとっては、一番痛かったのでは、ロナウドやアドリアーノのコンディション不良や、采配の方法ではなく、このエヂミウソンの離脱だったかもしれない。

● Wボランチのファーストチョイスは、エメルソンとエヂミウソンだった!?
 実は、パレイラはWボランチは、エメルソンとエヂミウソンで行くつもりだったのではないか。八百屋は今でもそう信じて疑わない。
 バルサで大きな成長を遂げたエヂミウソンは、センターバックもボランチも出来るマルチロール性を持っている。多くの専門誌が、ゼ・ロベルトをボランチのファーストチョイスだと取り上げていたが、ボランチが本職でなくしかも守備能力は凡庸の域でしかないゼ・ロベルトにパレイラが満足していたはずが無い。その理由は、W杯94アメリカ大会。このワールドスタンダードともなったWボランチシステムの基礎を作り上げたパレイラが掲げるWボランチは、マウロ・シウバやドゥンガのような、守備力の高く、ショートパスの制度がきわめて高い、フィルター+繋ぎの役割を求めているはず。しばしドリブルで攻め上がり、守備をお留守にするゼ・ロベルトは、攻撃的タレントが揃わない南米予選ではチョイスできるメンバーでも、攻撃陣がずらり揃う本大会では、遅くスーパーサブの扱いでしか考えていなかったはずだ。
 実際、W杯前のキャンプで、エヂミウソンはパレイラにつきっきりで指導を受けていたと言うエピソードがある。彼のボランチ+CBが出来るマルチロール性を十二分に活かした、3バックとWボランチの戦況においての併用を、彼に説いていたはずだ。つまりは、両サイドバックが攻めあがった場合、最終ラインは、2枚のCB+エヂミウソンの3バック+エメルソンの1ボランチでしっかり守り、4バックが戻ってきているときは、4バック+Wボランチでしっかり守る、カルテット・マジコを100%攻撃に充てる為の、守備網の構築ヲパレイラはやっていたはずだ。
 そして、その動きを実践で確認し、体で覚えてもらう為、怪我していたエヂミウソンを無理やりテストマッチで起用してしまい、怪我か更に悪化。エヂミウソンはW杯を断念せざるを得ず、無念の会見でも人目をはばからず涙していた。彼の涙は、パレイラの期待に応える事が出来なくなった無念の涙だったのではないか…八百屋は今でもそう思っている。

● ゼ・ロベルトが攻守のバランスを壊す
 ゼ・ロベルトは、今大会、不調のセレソンの中で気を吐いていた、と評する専門家は少なくない。ヤフーのベストイレブンと言う企画があっていたので何気に眺めていたら、ゼ・ロベルトをベストイレブンに押す方は少なくなかった。
 しかし、八百屋に言わせれば、ゼ・ロベルトはロベルト・カルロスやロナウヂーニョの特徴をかき消した張本人であり、守備のバランスをも崩したマイナス要素の多いプレーヤーだったと評価する。
 まず、ゼ・ロベルトは、繰り返すようだがボランチが本職ではない。主戦場は左サイドハーフ。代表にはいつもロベルト・カルロスの存在があり、いつも日の目を浴びることが少ないセレソンの苦労人だった。
 しかし、ボランチのポジションを与えられると、不思議とフィットしたように見えた。サイドハーフで鳴らした攻め上がりと、もともと運動量が豊富だったこともあって、ピッチの随所に顔を出したゼ・ロベルトは以降、ボランチのポジションで起用されることが多くなる。しかし、これは、3センターハーフと言う、3ボランチにも似たシステムで初めて可能な動きで、セレソンのWボランチにおいては、1も2にも守備専従がその役目であるはずだった。
 ところが、攻めあがりこそ我が心情のゼ・ロベルトは暫し守備をエメルソンに押し付けて攻め上がる時間帯が多かった。また、エメルソンも今大会コンディション不良だった為、守備の負担はことのほか大きく、何度無くセレソンの守備は緊急事態に陥った。
 また、左ボランチを勤めていた、ゼ・ロベルトはロナウヂーニョやロベルト・カルロスとの連携が重要な役割だった。しかし、ゼ・ロベルトはロベ・カルの攻め上がりを悉く無視し、パスを出さないばかりか、自分が攻めあがることでロベ・カルを自身の守備へと追いやってしまったのだ。この、ロベ・カルのパスを出さないプレースタイルは後に、ロベ・カルに左サイドのレギュラーを奪われ続けていた鬱憤を晴らした、と言う報道が出てしまうほど徹底して存在を無視。これにはロベ・カルも怒り心頭。公式の場でのコメントは無かったが、非公式ではとても言えない様な辛らつな批判があったと伝え聞く。
 そして、ロベ・カルの効果的な攻め上がりがゼ・ロベルトによって封じられて一番困ったのはロナウヂーニョだった。
 今大会、FWのオフザボールの動きが乏しかったのは前述したが、パスの出しどころに窮していたロナウヂーニョに、その活路を与えてくれる役割をロベルト・カルロスは持っていた。しかし、攻め上がりを自粛せざるを得なくなったため、ロナウヂーニョが期待していたロベ・カルの攻め上がりは無く、ロベ・カルが攻めあがっていても、その時のボール保持者はゼ・ロベルト、何ともバツの悪い状況が今大会随所に見られた。
 彼がセレソンでない代表チームであれば、許されるプレースタイルだったかもしれないが、ここはセレソン。彼のプレースタイルはセレソンに悪影響を与えたことは間違いない。八百屋は彼の2得点よりも、ロベルト・カルロスやロナウヂーニョの魅力を半減させた彼のスタンドプレーを批判したい気持ちの方が強い。


◎八百屋のこれだけは言わせて!!…ロナウヂーニョのパフォーマンスが敗退の理由にはならない
 今大会、多くのメディアがロナウヂーニョのパフォーマンスが、セレソンのベスト8敗退の理由として挙げていた。一部では、期待はずれだったワールドクラスのプレイヤーの中に、ロナウヂーニョに1票を投じたジャーナリストは、結構多いかもしれない。
 しかし、ここまで読んでいただけた方は、何を言おうとしているかもうお気づきだと思うが、ロナウヂーニョのパフォーマンスが、セレソンのベスト8での敗退には何ら関係ないし、ロナウヂーニョのコンディションが不調だった言うわけでも決して無い。何が言いたいかとすれば、ロナウヂーニョのバルサでの役割とセレソンでの役割はあまりにも違いすぎたと言うことだ。
 バルサでは、センターバックの2人を除く全選手が、オフザボールの動きに優れている。FWでは、エトー、ジュリ、メッシー、ラーション、MFでは、デコ、シャビ、イニエスタ、ファン・ボンメル、SBでは、ジオ、フレッヂ…みんなオフザボールの動きに優れている。
 彼らが流動的に動くことで、相手DFがマークに苦しみ、ロナウヂーニョに張り付くマークが少なくなると彼自身が突破を試みる…バルサでは実に役割分担が明確で、且つ攻撃のスタイルやシステムが全員に浸透しており、ロナウヂーニョも彼の手段を十二分に発揮できるベースが整っていた。
 ところが、セレソンではどうか。彼はあくまで左のOMFの1員でしかない。つまり、攻撃の組み立てが主であって、自分が生きるようなプレースタイルを求められているわけではない。どらかと言えば、パサーとしての役割が求められている。
 しかし、パサーと言えど、パスの受け手が動かないFWだと、困惑してしまうのは当たり前だ。ここには、エトーもメッシーもジュリもラーションもいない。いるのはペナルティーエリアに張り付く、ロナウドとアドリアーノだけ。唯一の望みのロベルト・カルロスも守備に追われ、効果的な攻め上がりが望めなかった今大会、ロナウヂーニョの活躍を望むほうが無理だった。
 ロナウヂーニョは確かに凄い選手であることは間違いない。しかし、彼が100%のパフォーマンスを発揮できるのも、戦術をよく理解しているバルサの面々がいるからであって、ロナウヂーニヨがどこのクラブに行ってもあのような活躍ができるかと言えばそうともいえないと思うし、今回のセレソンがはからずしもそれを証明してくれたと思う。
 ロナウヂーニョは偉大な選手だが、絶対ではない。残念ながらマラドーナのように1人で全ての戦況を変えてしまうような力はまだ彼には宿っていない。それを勘違いしたメディアが彼を酷評していたがそれは大きな間違いだ。
 ブラジルに帰国後、彼は国民に謝ったという。責任感の強いロナウヂーニョらしいエピソードだがそれは違う。サッカーは11人でするもの。セレソンと言えどその事実に変わりは無い。
 その事を分かっていながら効果的に策が打て無かったパレイラが、ベスト8で消えてしまったのは、ある意味必然だったのかもしれないと、妙に納得してしまった八百屋だった。
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by 5aday | 2006-07-24 23:10 | FIFA Worldcup 2006


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